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マリヴォー 『恋のサプライズ2』の翻訳掲載開始! [マリヴォー]

マリヴォー『恋のサプライズ2』の翻訳を
ホームページsanki’s empty spaceに掲載開始しました。
http://www012.upp.so-net.ne.jp/sankis-es/

『恋のサプライズ2』については、ブログ記事
「リュック・ボンディの『恋のサプライズ2』」(2009/12/01)で紹介しています。
また、ブログ記事「エリック・ロメールとマリヴォー」(2010/04/20)でも触れていますので、
ぜひそちらもご覧ください。

『恋のサプライズ2』は1727年に初演されたマリヴォーの3幕の喜劇です。
その第1幕の第1景から第3景を訳しました。
『恋のサプライズ2』となっているのは、
この前に『恋のサプライズ』というのがあって、
そのセカンド・バージョンという意味です。

タイトルの「恋のサプライズ」は原文では “la Surprise de l’amour” で、
「恋の不意打ち」と訳されてもいますが、
フランス古典劇の「現代語訳」を試みるsanki’s empty spaceとしては、あえて
「サプライズ」という言葉で「不意打ち」を狙いました。

友情だとばかり思っていた私のあの人への気持ちが、
気がつくと恋愛感情だった、というサプライズ・・・
ある意味で、とてもマリヴォー的な芝居です。

『恋のサプライズ2』はダイアローグ劇です。
友情と愛情の間で言葉が揺れ、
理性と欲望の間で心が揺れ、
言葉が心と裏腹に微妙な嘘をつきつづける。
嘘をついていることに本人も気がつかない。気づいても、認めようとしない・・・

非常にすぐれたテクストなので、これを現代日本語に訳すことで、
ワークショップや演劇部の「練習」などにも利用できるのではないかと思います。
もちろん芝居としても面白いのですが、「教材」として、
日本演劇の「教育」的領域に新たなものをもたらせるのではと期待しています。
高校・中学の演劇部のみなさん、ぜひワークショップ的に利用してください。

また、翻訳テクストについて疑問・質問などありましたら、
お気軽にsanki’s empty spaceまでおたずねください。

というわけで、ここで、sanki’s empty spaceの紹介・・・というか、広報活動:

sanki’s empty spaceは「日本演劇におけるフランス古典劇のレパートリー化」を目指しています。(「レパートリー化」とは、例えばある同じひとつの古典劇をさまざまな劇団がさまざまに演じ、観客がそうした多様性を普通のこととして楽しむようになる・・・そういう状況を創り出すこと。)

sanki’s empty spaceは演劇翻訳のあり方を考え直そうとしています。翻訳はひとつではなく、演出する者により、演じる者により形を変えていくものだ・・・と、演出家や、俳優や、観客が普通に考えるような状況を創り出そうと目指しています。

sanki’s empty spaceは、同じ考えを共有する人たちと協力して活動したいと考えています。


では、『恋のサプライズ2』に話を戻して・・・

侯爵夫人は最愛の夫を喪ったばかり。シュヴァリエも愛する人を失ったところ。
二人とも、二度と人を愛したりしないと決めています。
これからは、失った愛の悲しみとともに生きるだけ・・・
といっても、二人はまだ若い。
年齢は書いていませんが、例えば20代と考えて問題ないでしょう。

彼らの家は隣り合っていて、間に庭があります。
庭に出てくると自然に顔を合わすような空間構造。
二人は悲しみを語り合うことから始めます。
そして、私の悲しみをわかってくれるのはあなただけ、と互いに思う。
二人はお互いを深く理解し合う大切な友人同士・・・のはずなんですが・・・

侯爵夫人の小間使いのリゼットと、シュヴァリエの従僕リュバンも、
どうやら互いに好意を持った様子。
彼らの場合は、恋愛感情を友情と取り違えたりはしません。
彼らの主人たちが、愛情と友情の間で道を誤れば、自分たちの恋の成就も危ぶまれ・・・

情熱に背を向け理性に生きよと説く、侯爵夫人の家庭教師オルタンシウス先生と、
さらに、侯爵夫人に「横恋慕」する伯爵が加わって、
もつれた糸はなかなか解けません。

ファースト・バージョン『恋のサプライズ』の方は、
『恋のサプライズ2』の5年前、1722年の初演です。
二つのバージョンは同じアイデアからつくられているとは言えそうですが、
演劇のあり方みたいなものがぜんぜん違います。

『恋のサプライズ』はイタリア人劇団のために書かれた芝居。
一方、『恋のサプライズ2』はフランス人劇団のために書かれた芝居です。

イタリア人劇団とフランス人劇団については、
ブログ記事「ストレーレルの『奴隷の島』」(2009/10/26)で少し触れていますので、
そちらもご覧ください。

『恋のサプライズ2』は、ダイアローグ劇なので、
リーディング形式のようなものでも、芝居としての面白さを十分楽しめると思います。

一方『恋のサプライズ』は、コンメディア・デ・ラルテ的な
身体の動き、身振りや身のこなし、
即興性やギャグ的要素などを、その演劇のベースとしていますから、
演劇部の「練習用テキスト教材」として利用するのは少しむずかしそうです。

マリヴォーとイタリア人劇団の関係は濃密なものです。
マリヴォーの38の劇作のうち21作品がこのイタリア人劇団のために書かれています。
マリヴォーの台本が最初にあって、それをイタリア人劇団が演じた、というのではなく、
台本はイタリア人劇団のために書かれました。

イタリア人劇団とはどんな劇団で、どんな役者たちがいて、それぞれどんな才能を持っている、ということを完璧に把握した上で、この役者にはこの役というふうに具体的にイメージして台本は書かれています。
『恋のサプライズ』には、チェーホフの芝居のような詳細なト書きはありませんが、
マリヴォーの意図は台詞の外にも充ち溢れていました。

例えば、コンメディア・デ・ラルテの典型的キャラクターであるアルレッキーノを、伝統的な仮面をつけて演じるトマサンという役者は、ト書きがないからといって、マリヴォーの登場人物アルルカン(アルレッキーノ)を「自由」に演じていたわけではありません。
これこれの場面でトマサンがどんな芝居をするのかを、あらかじめマリヴォーは完全に「知って」いました。
トマサンはマリヴォーの「望みどおり」に演じてくれる・・・
マリヴォーがト書きを書いていないのはそのためです。

『恋のサプライズ』を現在の日本で舞台にかけて「成功」するためには、
多種多様な人材を集めてプロジェクト的にやらないとむずかしい、という気がします。
一方『恋のサプライズ2』は、より広い領域で遥かに自由に演じられると思います。

『恋のサプライズ2』は、いま、リュック・ボンディの演出したものがフランスのDVDで手に入ります。
フランスのものなので日本語字幕はついていないのですが、すばらしい演出なので、
日本の演出家や俳優たちにとって貴重な資料になると思います。
僕の翻訳は、たぶんリュック・ボンディの演出の影響を受けてしまっている・・・

タイトルは“2”の部分がフランス語の“セカンド”になっていますので、
« La Seconde surprise de l’amour » です。Ruc Bondy の演出。
Collection COPATというところから出ています。

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