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時間堂 『月並みなはなし』 再訪 [見た芝居]

時間堂『月並みなはなし』を、本公演の最終日(3月14日)に滑り込むように、もう一度見てきました。

プレヴュー公演で一度見ています。
その時は、
きれいな舞台なのだけれど・・・あの、なにか・・・違和感というんでしょうか・・・そういうのがあった。
歯車の噛み合わせにちょっと違和感が・・・みたいな感じ・・・

で、本公演に向けて調整がおこなわれて歯車がぴたっと噛み合った時には
どういう芝居になるんだろう・・・と気になった。
一度気になってしまうと、ずうっと気になって、そんなに気になってるんだったら、
もう一度見に行くしかないよね・・・というわけで、もう一度見に行ったわけです。

えーっ?一度見たじゃん、
という気持ちと、
いや、あの芝居、まだ本当には見ていないんだよ、
という気持ちが、僕の中で争っていたわけですが、
結論的には、もう一度見て正解。

ぜんぜん違った。
いや、ちょっとした調整なんだろうけど、それでぜんぜん違ってしまう・・・
『月並みなはなし』はそういう芝居でした。
音楽のような芝居・・・そう思います。

たとえて言えば、バッハのフーガとか・・・
対位法と和声。
右手のメロディを左手が追いかける。
右手が上昇し、左手が下降する。
計算された動きが、あくまでも自然に流れていく。
いったん動き出したら止まらない。
追いかけて、追いかけて、どこまでも・・・

俳優自身にはそれほど大きな違いがあるという意識はないのかもしれないけれども、
ほんのちょっとした違和感があっても、それがホールの空間全体に反響してしまう。
流れが何度もせき止められると、それは観客にストレスを生み、
やがて、観客は、ひとり、またひとりと集中力を失いはじめる・・・
プレヴュー公演には、ちょっと、そういうところがあったかもしれない。
少なくとも僕は途中ですこし集中力を欠いてしまった。

それが、14日の公演では、流れが面白いようにつながって・・・

ホール全体がひとつになって「音」を追いかけていく、みたいな・・・
そのコンセントレーションが、ピーンんと張り詰めた静寂を生み、
その静寂の音が、観客のひとりひとりに心地よくフィードバックされてゆく・・・

ストーリー的には、『月並みなはなし』は、
ある意味「密閉」された部屋の中で展開するグループ劇なのですが、
途中何回か、劇空間が部屋の外(テラス)にも展開します。
空間が内と外の二つになり、グループもその間だけ二つの小グループに分かれる・・・

で、ここが黒澤世莉の音楽性をよく表している場面なんです。

二つになった劇空間は分裂したのではなく、
従って、平田オリザ的「同時多発」劇とはコンセプトが違います。
二つの空間で別々の芝居をするのではなく、ひとつの劇空間の中で
ひとつのグループが二つのパートに別れる・・・
音楽などでパートに別れるという時のパートに別れる。
内と外とが、いわば右手と左手のパートに別れてフーガを演奏する・・・
そういう感じ。

誰かがためらうと、微妙な間ができて流れが止まる。
誰かに余裕がないと、間が狂って、台詞の出を間違えたように聞こえてしまう。
その代わり、うまく流れた時には、
ジャズライブで名演奏を聴いているような快感があります。

最終日の時間堂は、そういうバッハ的なジャズ的な快楽で満たしてくれました。

黒澤世莉の『月並みなはなし』がむずかしいのはそこなのかもしれない。
これは、ひとり、二人、いい役者がいたからといって成功するわけではない。
アンサンブルがそろわないとうまく回らない。
全員がいい役者でも、彼らが、演劇の、このセッション的な・・・ジャズでいうセッション的な・・・側面を理解していないと、やっぱり成功しない。

そういう意味で、『月並みなはなし』はとても繊細な芝居。
うまく流れていない時は、ひとり一人の登場人物の台詞、
ひとり一人の役者の演技にも説得力がなくなってしまう。

登場人物でひとりセガワ・ミミという「部外者」がいて、この人だけが、
ちょっとトリックスター的役なので、すこし独立性が強いかもしれません。
プレヴュー公演では、大川翔子さん演じるミミが、8人の中でとりわけ粒だって見え、
なかなかよいと感じましたが、14日の公演を見てわかったことは、
ミミが粒だって見えるということは、必ずしもいい兆候ではないということ。
芝居がぴたっとハマった時には、全員がひとり一人粒だって見えるわけだから・・・

よく晴れた日曜日の午後に、ぶらっと出かけて、こういう芝居が見られるってことは、いいよね。
こういうことが日曜日の標準になるといい。
今日、デパート行く?河川敷行く?それとも芝居行く?みたいな・・・

そうね、あとは・・・登場人物の年齢層にもっとばらつきがあるといいかも・・・
これは現実問題として、むずかしいのか?・・・

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