SSブログ

時間堂『月並みなはなし』 [見た芝居]

時間堂の『月並みなはなし』(黒澤世莉脚本・演出)が
3月11日(今日)から14日(日曜日)まで、「座・高円寺2」というホールで上演されています。

黒澤世莉さんは、前回の時間堂公演で、マリヴォーの『奴隷の島』をとり上げてくれた演出家。
今回はオリジナル脚本で、杉並演劇祭参加です。

そのプレヴュー公演というのを10日(水曜日)に見てきました。

「座・高円寺」は杉並区立芸術会館の名前で、
「座・高円寺2」はその地下二階にあるお洒落な小ホール。
いわゆる小劇場公演のイメージからすると、ゴージャスというかデラックスというか、なかなかな快適空間。

箱としてのホールが快適なだけではなくて、舞台上の空間も快適・・・というのか、
こちらは素敵と呼んだ方がたぶん似合っている。
まあ、ぜひ見てください。絵本を開いたような、そんな感じ・・・

で、また、この公演でとにかく素晴らしいのが役者たちの衣装なんですよ。うーん、と唸ります。
普通の格好っていえば普通の格好なんですよね。それを着て街を歩いてもいい。
でも、それで、8人の登場人物たちが一人ひとりくっきりと浮き立って見える。
登場人物はみんな普通の人たちで、とりわけ強い個性を持っているわけでもないんだけれども、
それぞれがそれぞれに際立っている、っていう、そういう芝居の世界を衣装でぴたっと揃えた。
色彩もスタイルもとりどり。ただし、適当に混ぜて散らしたっていうバラエティじゃない。
ひとつひとつが全体の中でコーディネイトされている。

パフォーマンスは、役者一人ひとりの名前紹介から始まります.
登場人物は8人プラスもう一人いて、全部で9人。
全員が舞台上で椅子に腰かけ、一人が立ち上がり、残りのみんなが、
その人の名前をひとり一字(一音)ずつ言っていく。み、そ、ら、ひ、ば、り・・・
つなげると名前になる・・・あのですね、わかるかな・・・これはアドリブというのか、
一種のゲームになっていて・・・つまりですね、誰がいつどの一字を言うのかは決まっていない。
まわりの気配をうかがいつつ、ここで言おうと思った人が言う、
ただし、二人が同時に同じ一字を言ってしまったらゲームは終わり・・・みたいな・・・
ワークショップでやるかもしれない。それを観客の前でやります。
名前が通して言えたらいいんだけれども、通して言えるということが必ずしも目的ではなくて、
誰かと重なってしまうのを恐れて、黙っていてもしようがない。
あえて行動するっていうか、芝居だからアクトする。
誰かと重なってしまったらそれも芝居。
じっと耳を傾けまわりの人々の息づかいを感じ、そして潔くアクトする・・・
僕はこのプロローグが本当に気に入りました。
これは一種の劇中劇で、『月並みなはなし』っていう芝居全体をすべて物語っているような気がする。
人物たちの、役者たちの関係が問題なんだよね。
仲間たちの声に耳をすますことが大事なんだよね・・・
そう、登場人物のひとりの名前はミミ(耳)という名前なのです・・・

ストーリーは、ちょっと近未来的な話。
温暖化が進み地球の環境は悪化。人間は月に移住を開始する。
特別に訓練された人だけが宇宙に行くというのではなく、
入植者として、パン屋さんとかエレベーターガールとか、普通の人が行くんだけれども、
だからといって誰でも行けるわけじゃない。
国家的な事業なので、そういうなにか国家試験的なものに合格しないといけない。
しかも、試験はチーム単位で行われる。
チームは移住希望者の中からアトランダムにつくられる。
見ず知らずの人たちがチームになって一次試験、二次試験と勝ち抜き、
勝ち抜くごとにチームの絆は強くなって・・・
で最後の最後に、チームで合否が決められるはずが、チームの中から一人だけ月に行けることになって、
固い絆で結ばれた筈のチーム・メンバーたちは・・・
というわけで、ちょっと長くなりましたけど、芝居が始まるのはこの「最後の最後に・・・」のところからです。

平田オリザの有名な『東京ノート』が、やはりちょっとこういう近未来ものでした。
こちらは、なぜか、日本以外の国々で戦争が行われていて、
戦禍を逃れた世界の名画が唯一平和な国である日本に集められる・・・
異常な状況設定があって、そこで普通の人々がどう行動するのか、
その「人それぞれ」をリアルに描き出す・・・

黒澤世莉の『月並みなはなし』は、異常な状況設定をつくっておいて、
しかし、そういう状況での「人それぞれ」を描くのではなく、
あくまでも、ひとつの人間グループをひとつの人間グループとして追いかけます。
リアルにというよりは繊細に・・・登場人物たちのキャラが繊細というのではなく、
繊細なのは黒澤世莉。
黒澤世莉のつくりだす人間関係が繊細な歯車のように回ります・・・

プレヴュー公演では、この歯車はまだ完全にはチューンナップが終わっていなかったのかもしれません。
俳優たちはつい一昨日まで王子スタジオ1で練習していました。
『奴隷の島』をやったあの小さな劇場空間です。
その小さな空間の中で、まだ未完のまま生成を続ける彼らの芝居を観客に見てもらっていたのです。
プレヴュー公演では、「座・高円寺」というゴージャスな空間で200人もの観客の前で初めて芝居をします。
役者たちは、各自の身体の中に取り込んでしまった王子スタジオ1のアットホームな空間感覚を、
新しくて大きくてお洒落なこの空間に合わせようとして、たぶん、まだ戸惑っているようなのでした。

今日、木曜日の本公演初日では、そのあたりの再調整もできていたのでしょうね。
14日までのあいだに、ぜひもう一度見たいものです。
黒澤世莉の歯車たちがくるくると繊細にまわっているところを・・・

コメント(0) 
共通テーマ:演劇

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。